平成5年から平成6年度にかけての研究で、OHSSの精製についてある程度の進展があった。すなわち、このタンパク質はアカテガニやカクベンケイガニだけでなく、広く海産カニ類の幼生が孵化する際に放出されることがわかった。また、いろいろな種類のカニ類の卵塊を用いて、OHSSの活性を調べると、この物質の効果とカニ類の系統との間に密接な関係を見いだすことができた。さらに、アカテガニやカクベンケイガニではゲル濾過とSDS-pageによって分子量の推定が行われ、アカテガニでは15-20 KDa、カクベンケイガニでは30 KDaほどであることがわかった。 平成6年度の研究で最も大きな進展は、カニ類幼生の孵化水の中には担卵毛を露出させる物質(OHSS)以外に、カゼインを分解するプロテアーゼが含まれていることが発見されたことである。このプロテアーゼは今まで多くの生物で知られている「孵化酵素」とはおそらく異なった機能を持つに違いない。すなわち、このプロテアーゼは卵殻それ自身を溶解するのではなく、孵化の直前に胚の表面を被っている粘りけのある層を部分的に溶解するものと想像される。一方、このプロテアーゼの分子量については、孵化の際に自己消化している可能性があり、確定した値は得られていない。 いずれにせよ、海産甲殻類の孵化時に幼生が分泌する活性物質は2種類あることになり、どちらも今まで知られている孵化酵素とは性質も機能も大きく異なったものであることが確実になりつつある。今後は形態学的な研究を加えて、この2種類の活性物質が孵化にどのような役割をはたしているのかについて明らかにしたい。
|