1.デトリタス食性カラヌス目カイアシ類4科(Diaixidae科; Phaennidae科; Scolecitrichiae科; Trarybidae科)の11属の第2下顎の基節・内肢、顎脾の底節に生じる感覚毛には3タイプあり、虫状感覚毛、毛筆状感覚毛、その他、と分類された。通常、虫状・毛筆状感覚毛の両方を持つが、属によってその構成は異なる。いずれも化学受容器であると推定された。虫状・毛筆状感覚毛の内部微細構造は、内部を走る微小管束数、微小管末端の配置が異なり、感受性の相違を反映していると考えられる。Scolecitrichidae科3属の消化管から、甲殻類の破片、尾虫類ハウス等のデトリタスが頻繁に検出された。Phaennidae科に属するCephalophanes属は第2下顎に感覚毛を持つことに加え、ノ-プリウス眼が特殊化した大型反射板を1対持っているが、本属の特殊な消化管内容物から反射板がデトリタス検出に機能している可能性がある。紅海産ポエキロストム目Oncaea属9種も尾虫類ハウスを餌料として利用していた。2.主に中深層以深に生息するカラヌス目カイアシ類Heterorhabdidae科に属するHeterorhabdus属はコペポティドが主食である肉食者であった。本属の上顎咀嚼歯の最も腹側に位置する歯(V1歯)は筒状になっており、先端は注射針様構造になっている。この注射針の孔付近は底節の分泌腺由来と考えられるオパールで強化されていた。非捕獲時は、このV1歯基部は上唇の裏側にある1対の巨大分泌腺の開口部に密着している。この時にV1歯内部の空所に毒あるいは麻酔用物質が充填され、餌動物の捕獲時に注射針様先端からその分泌物を打ち込むと推定された。類似した構造は同科のHemirhabdus属とNeorhabdus属に見られたが、他4属には見られなかった。分岐分類学的解析によって7属間の系統関係を推定した結果、上顎咀嚼歯と上唇に上述の構造を持つ属が、系統的には派生的であった。このような特殊な摂餌様式は他のカラヌス目カイアシ類に類を見ない。
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