ミサキマメイタボヤは分化多能性上皮組織をもち、出芽した個体のほとんどの組織や器官はこの多能性組織(囲鰓腔上皮)から再構築される。囲鰓腔上皮は分化した色素細胞であるにも拘らず、胚細胞に匹敵するような多彩な分化レパートリーをもつのはなぜか。この問題にアプローチするために、囲鰓腔上皮の株細胞樹立を試みた。海産無脊椎動物の細胞培養は至難とされていたが、培地のpHと浸透圧を調製することでこれに成功した。幾つかの株はすでにクローニングを終了した。クローン細胞を低密度で培養するとそれらは囲鰓腔上皮特異的分化抗原を発現したが、高密度で長期培養すると脱分化細胞が出現した。さらに同じ培養皿で培養を続けると、大型の細胞が出現した。大型の細胞は空胞細胞(血球の一種)、消化管上皮細胞などを含み、神経細胞特異的抗原を発現している細胞もあった。これらの結果より、培養細胞が多分化能をもっており、その分化にはある程度の可逆性であることが判明した。 次に、ホヤ培養細胞が無血清培地では増殖しない性質を利用して、ホヤのサイトカインの探索を行なった。ホヤから抽出したプロテアーゼのうちアミノペプチダーゼが細胞増殖活性をもつこと、トリプシンが脱分化誘導活性をもつことが分かった。さらに、内在性トリプシンインヒビターは細胞増殖を抑制し、上記の大型細胞の分化を誘導した。これらの因子の作用機作を解明するために、それらの精製と構造決定を精力的に進めているところである。
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