ミサキマメイタボヤの出芽においては、内在性のレチノイン酸が誘導する囲鰓腔上皮の分化転換によって様々な組織が生じる。芽体では、レチノイン酸を取り込んだ間充織細胞が種々のプロテアーゼを分泌し、それらが基底膜の分解による増殖因子の放出などを通じて囲鰓腔上皮に働きかけ、分化転換を誘導すると考えられる。本研究では: 1.(1)レチノイン酸によって誘導されるアミノペプチダーゼを各種クロマトグラフィーによりほぼ完全に単離・精製した。(2)一方、昨年度確立した囲鰓腔上皮由来の株化培養細胞は無血清培地中ではほとんど増殖しないが、無血清培地にホヤから精製したアミノペプチダーゼ画分を添加すると著しく増殖した。また抗アミノペプチダーゼ抗体はこの増殖効果を阻害した。(3)アミノペプチダーゼは増殖のみでなく、消化管特異抗原の発現をも誘導すること、その誘導効果がコラーゲン・タイプ4によって増幅されることも分かった。 2.一方、ホヤの不溶性画分をトリプシン処理して可溶化した上清から培養細胞の増殖を促進する活性を得ており、これがプロテアーゼによってECMから放出される増殖因子ではないかと考えた。この因子が熱およびプロテアーゼ耐性であること、活性のある画分は脂肪酸を大量に含むがタンパク質含量が非常に少ないことなどから、この因子が脂肪酸の誘導体であることが示唆されたので、現在さらに精製と分析を進めている。 3.レチノイン酸を取り込んだ間充織細胞では、転写調節因子であるレチノイン酸受容体(RAR)が下位の遺伝子を制御して、プロテアーゼや増殖因子の発現を制御していると考えられる。本研究ではこのホヤからRARホモログのcDNAを単離し、全塩基配列と発現を解析した。このRARホモログは芽体の間充織細胞で発現していること、その発現がレチノイン酸によって誘導されることが分かった。
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