最近、当研究室においてミサキマメイタボヤの無性生殖(出芽)に深く関わる多能性幹細胞由来の株化培養細胞が樹立された。この細胞をアッセイ系として利用し、その増殖と消化管への分化を誘導するプロテアーゼ(アミノペプチダーゼ)をホヤから抽出・精製した。このプロテアーゼのアミノ酸配列をエドマン法で決定し、その配列を参考にしてPCR法によってcDNA断片を単離した。続いてホヤ群体のライブラリーより約1kbのcDNAを単離した。このcDNAがコードするポリペプチドはチオールプロテアーゼの活性部位の配列を持つ他に、trefoil growth factor遺伝子ファミリーに属する増殖因子のコンセンサス配列を持つことがわかった。この因子のもつプロテアーゼ活性は芽体の発生に伴って上昇するので、芽体の組織形成(多能性幹細胞の分化転換)においてこの増殖因子が重要な役割を果たすことが示唆された。 この因子の活性はレチノイン酸処理によって上昇する。芽体では実際にレチノイン酸が合成されることが示唆されている。本研究ではレチノイン酸生成酵素の候補であるアルデヒド脱水素酵素のcDNAを多数単離した。得られたいくつかのクローンのmRNAは芽体において時期特異的に発現していた。またレチノイン酸受容体(RARとRXR)のcDNAも単離した。無脊椎働物からのRARの単離は初めてである。RARのmRNAが芽体において発現すること、またレチノイン酸によって発現が誘導されることがわかった。さらに、ディファレンシャルディスプレイにより、レチノイン酸によって発現が上昇する遺伝子のcDNAを単離した。得られた多数のクローンのうち一つはトリプシンファミリーに属するセリンプロテアーゼをコードしていた。トリプシンは多能性幹細胞の脱分化を誘導できることから、このcDNAがコードするヘフチドの芽体発生への関与が示唆された。
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