本研究では、アザミサンゴの覆いかぶせ反応における順位がどのようにして決まるのかを調べた。群体間の覆いかぶせの順位は、直線的でなくネットワーク状になっていた。3つの群体間の関係に着目すると、AがBに勝ち、BがCに勝つ場合でも、常にAがCに勝つとは限らなかった。このことは、覆いかぶせの優劣は群体特有の成長速度の差のみによって決まるのではないことを示す。また互いに癒合する2群体が、第3の群体に対してそれぞれ逆向きの覆いかぶせ反応を示す場合も見られた。従って、癒合か非癒合かを決める組織適合性遺伝子と覆いかぶせの強さを決定する遺伝子は別のものである可能性が高い。もし組織適合性遺伝子が覆いかぶせの向きも決定するとすると、2つの群体の組織適合性遺伝子が部分的に等しければ癒合すると考えられる。Rinkevich et al(1994)は、ミドリイシの1種で同様の観察をし、同じ群体が相手が違えば異なる非適合反応を示すことから、サンゴは多型性の非自己マーカーを識別して異なる種類の非適合反応を示すことができると考えた。しかし、今回同じ2つの群体由来のポリプペア-でも覆いかぶせの向きが異なったり、覆いかぶせの向きが時間とともに逆転する場合が観察された。これらのことは、覆いかぶせの向きは生理的条件、環境条件により影響を受けることを示している。従って相手によって覆いかぶせたりかぶせられたり、勝負がつかなかったりと異なる反応を示すからといって、サンゴが多型性の非自己マーカーを識別できるとは言えない。サンゴは相手群体に自己のマーカーがなければ非自己とみなして非癒合反応を示し、覆いかぶせの向きは別の遺伝子により決まり、さらに生理的環境的諸要因の影響を受けると考えられる。 組織非適合性反応に関与する細胞の同定についても試みたが、解離細胞を組織像と関連づける形で同定することがまだできておらず、今後の課題である。
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