本研究は中深海の微弱な光環境の変動とそこに棲息する動物の諸行動との関連性を明らかにすることを目標に、次のような測定及び調査を実施し、多くの知見を得た。しかし、本研究計画の初年度に阪神大震災に遭遇し、大半のデータと測定・分析機器を失い、最終年度(平成7年)に新たに実施した研究成果が残った。 1、富山湾に面する7漁港の日毎の漁獲高を過去五年間分を集計し、ホタルイカの群れの大きさの推定と動態を調査した。 2、ホタルイカは生活場所の光環境に対応して体表面の発光器の発光強度を変える。そこで、上記の測定と並行して、ホタルイカの発光機構を探る目的で発光物質の分離・精製を試みた。また、これに平行して、全ての発光器に含まれる結晶様構造体について詳細な分析を行った。 以上の結果、本研究に併せて開発した水圏の光環境測定用分光測光器を用いて中深層の波長分布を明らかにすることができた。富山湾では予想以上に河川水の流入があり、表層部と水深50Mに汚濁層が形成され、光分布を歪める。水深約30mに植物プランクトンの高密度生息層が形成されることなどがわかった。また、ホタルイカは微弱な光変化に反応して、垂直方向の日周期活動をする事を見いだした。日没直後より中深層より浮上を始め、約2時間後には約水深10mに達し、層状の群れを形成する。その後、海岸に向かって移動し、産卵行動に移ることを見いだした。この結果は富山県水産試験所の林による2時間毎に定置網に入網した個体を計測するホタルイカ産卵行動の観察結果とよく一致している。これまで、ホタルイカの産卵のための接岸は夜半過ぎから明け方と考えられてきたが、接岸時間はもっと早い時期(日没後2-3時間以内)であることがわかった。また、接岸行動に一定のリズムがあり、五月初旬の満月の日に当該年度の最大接岸産卵日があり、この日を中心に前後1-1、5カ月の間、各満月の日にあわせて接岸産卵行動が起きることをみいだした。 ホタルイカの発光物質の分離・精製では発光に関与するタンパク質を精製することに成功した。分子量約6万、酸性側で比較的安定な水溶性アポタンパク質で発色団としてセレンテラジンをエステル結合していることを明らかにした。発光器に含まれる結晶様構造体は上記アポタンパク質が色素団とともに結晶化したものであることをX線構造解析、電子顕微鏡観察、偏光顕微鏡観察により明らかにした。
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