研究概要 |
ミドリイシ属サンゴの種間系統関係の遺伝的多様性を調べるために分子分類法を適用した。 まず指標となる遺伝子として、刺胞カプセル構成分子をコードするミニコラゲン遺伝子をミドリイシサンゴ2種(A.donei,A.nasuta)のゲノムからクローン化してその遺伝子構造を明らかにした。この遺伝子は3つのエクソンからなり、塩基配列は2種間で非常によく似ていた。また予想される遺伝子のアミノ酸配列は、ヒドラのミニコラゲンと構造上の特徴はよく保存されていた。 次いでミドリイシ属サンゴ14種47群体の精子DNAから、ミニコラーゲン遺伝子の第2エクソンから第3エクソンにまたがる領域約500塩基対をPCR法によって増幅し塩基配列を決定した。得られた塩基配列に基づいて分子系統樹を作製した結果、以下の知見が得られた。(1)ミドリイシ属14種は3つの近縁グループに分類できて、従来の形態分類とおおまかに一致した。しかし鹿角状と散房花状といった外見上大きな形態の違いが分子分類とは一致しなかった。(2)集中的に解析した2種(A.nasuta,A.secale)では、塩基配列の種間変異が低い一方で種内多型が高いことが分かった。キイロショウジョウバエと比較して、種間変異が10分の1以下、種内多型が数倍程度である。このことはこれらの種間で交雑による遺伝子浸透がある可能性を示唆する。 一方実験的に交配を行なった結果、上記の2種A.nasutaとA.secaleの間で低頻度ながら交雑が観察された。 ミドリイシサンゴは狭い海域内で多くの種が同時刻に一斉に産卵するため種間交雑の起きる確率が高いが、これまでの研究結果から自然界でも種間交雑が起こっている可能性が示唆された。
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