本研究では一斉産卵に伴うミドリイシサンゴの種分岐と遺伝子移入に関する問題を、形態分類とDNA分類と生殖隔離とから検証することを試みた。まず指標となる遺伝子として、ミニコラゲン遺伝子をミドリイシ2種から単離し全長5千塩基にわたりその配列を決定した。その比較にもとづいてミドリイシ属内各種に対してPCRによる増幅が可能な領域を予想してプライマーを設計した。そのプライマーを用いてミドリイシサンゴ全種から、ミニコラゲン遺伝子の第2エクソンから第3エクソンにまたがる約500塩基の増幅に成功した。得られた塩基配列の違いに基づく種内多型と種間変異を定量的に算出した。一方ミドリイシサンゴ各種の種内および種間の交配実験を行なって生殖隔離の確認を行なった。その結果、(1)A.nasutaに形態的に似ている種の間で実験的に種間交雑があり、しかもミニコラゲン遺伝子の変異が種間よりも種内の方が多く、種間交雑による遺伝子移入の可能性が示唆された、(2)形態的に全く異なるA.nasutaとA.formosaの2種間で高頻度に受精し、しかもA.formosaの遺伝子配列はA.formosa独自のものとA.nasutaに類似するものとに分離したことから、A.formosaはA.nasutaと未知の種との雑種の可能性も示唆さた、(3)テーブルサンゴの優占種A.hyacinthusではミニコラゲン遺伝子の変異はさほど多く無いのにも関わらず、種内で受精する組み合わせが少なく、種内で生殖隔離が急速に進行していることが示唆された。支配実験で得られた幼生からDNAを抽出してミニコラゲン遺伝子の配列を調べ、いずれも両親から1本づつ由来する配列が確認できた。
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