本研究では、これまでに本研究代表者が静止した顔刺激を用いて行った実験から得た知見、すなわち「人が他者の顔の眉や目、口といった各部の形態における『湾曲性・開示性』の度合いや『傾斜』の度合いを表情のカテゴリー化のための主要な情報として抽出している」という実験的証拠が、動きのある顔刺激を用いた実験からも確認できるかを検討した。より具体例には、次に述べるような研究を実施した。 1 顔面表情の動画像サンプリング まず複数の刺激人物に6つの基本的感情の顔面表出を演じさせ、この時の刺激人物の顔貌変化をビデオテープに録画した。さらに、録画されたテープの中から、各感情の顔面表出が最もうまく演じられている録画シーンを特定した。 2 動画像を用いた顔面表情の認知判断実験 次いで、上記の顔面表出シーンを刺激材料として、平常の状態から特定の表出が最大に至るまで、あるいはその途中までの動的な顔貌変化に対する感情のカテゴリー判断を被験者に求める実験を行った。 3 動的な顔面表情の認知において人が顔から抽出している視覚的情報の検討 上記の実験結果の分析にあたり、まず各感情の顔面表出シーンにおける顔貌の動的変化、すなわち平常の状態から表出が最大に至るまでの顔貌の変化を定量的に測定した。この測定を基にしてさらに、顔面表情の動的な変化とそれに対する被験者の認知的反応(感情カテゴリー判断)の心理物理的関係を正準判別分析により解析した。
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