1.文体論研究のとりかかりとして、日常言語と詩的言語の中間に位置すると考えられることわざを対象として選び、中国語のことわざの形式的特徴を考察した。その成果は、山形大学教養部での一般教育科目「世界のことわざ、ことわざの世界」で講義し、また書評「ことわざの内容から形式へ:温端政著、高橋均・高橋由利子編訳『諺語のはなし--中国のことわざ』」として発表した。 2.次に、中国近代小説の本格的な作品を文体論の観点から分析する試みとして、魯迅「傷逝」を選び、従来西欧近代小説に指摘されていた自由間接話法が、中国語にも認められることなどを考察した。その成果は、論文「魯迅「傷逝」に至る回想形式の軌跡--独白と自由間接話法を中心に」として発表した。 3.中国の前近代における小説の形式については、語り物との類似が従来から指摘されていた。本研究では、現存最古のテクストである『六十家小説』の版本上の特徴を手がかりに、出版形態や戯曲のセリフの文体との関連から、古典小説の文体・形式の成立について考察した。その成果は、論文「從《六十家小説》版面特徴探討話本小説及白話文的淵源」として発表した。 4.2、3の研究を通して、中国の古典小説と近代小説の形式的文体的差異は、特に語り手のあり方に顕著に表れることを明らかにした。中国小説の文体を規定する要因としては、古典小説の場合、3で考察したように出版形態と白話文体の成立が重要である。近代小説については、西洋文学との接触、特にその翻訳の文体が重要だと思われるが、具体的な研究は引き続き行うこととする。今後はこうした小説文体の通時的変遷だけでなく、書面語と口語、さらに小説・新聞・日記・書簡など多様な文体の共時的並存に対しても注目していく必要がある。
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