研究概要 |
1994年度は、移転価格税制やスーパー・ロイヤリティー・ルールをめぐって、大きな動きが見られた。まず、アメリカ内国歳入法典482条に関する最終規制と6662条に関する暫定規則の制定があげられる。その基本的スタンスは、適用可能性のある評価方法を広くとりながら、最適方法ルール(best method rule)の下で最適な方法を選択させることとし、これを6662条の罰則によって担保するものと捉えられる。知的所有権に関して、規則のあげる諸方法に中で問題となるのは、利益比準法(compable profit method,CPM)である。この方法は、大まかにいえば、類似の状況下における他の納税者のあげる利益に基づいて移転価格を算定するという方法であり、一種の推計課税であることから、納税者側からの批判が強く、OECDも、7月に公表した報告書で、真に最後の手段にすべきであると勧告している。わが国も、アメリカによるCPM適用に批判的であるが、措置法66条の4第7項の推定課税は、CPM的適用が可能である。 しかし、興味深いのは、同じ利益に基づく方法でありながら、納税者の内部データに主に依拠する利益分割法(profit split method)は、好意的に受け入れられ、特に、事前確認方式(advanced pricing agreement,APA)において、広く用いられていることである。おそらく、知的財産権の絡む移転価格事案において、利益という要素を入れずに移転価格税制を執行することがおよそ不可能であるといってよいであろう。この点に関連して、国外に親会社を持つ米国子会社に対してユニタリー方式の適用を認めた、連邦最高裁によるBarclays Bank事件判決も注目される。 利益が重要であるとすると、当然、知的財産権等の無形資産等を作り出すために必要とされた費用が問題となるが、本研究で得られた新たな知見の一つとして、知的財産権の形成に与えた租税上の優遇措置等の影響を評価すべきことがあげられる。タックス・シェルターなど、租税上の大きな利益を享受しながら形成された無形資産に対して、利益に基ずく方法を適用する場合には、課税上の利益を考慮すべきである。
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