マクロ経済に加わるショックがどのように調整されるかについては、新古典派メカニズムによる「価格調整」とケインジアンによる「数量調整」の二つが考えられてきた。後者の具体的な「数量調整」メカニズムはアプリオリに仮定されるか、抽象的な理論モデル分析に重点が置かれてきた。このような状況では、実証分析の基礎となるTractableなモデルがないため、議論はすれ違いに終わっていたが、近年において発展の盛んなcounter-cyclical markupsモデルは先のような二者択一の問題設定ではなく、どの程度価格が調整され、どの程度数量が調整されるかを定量的に検証するフレーム・ワークを与えている。 もともとこのモデルの基本的なストーリーは、需要上昇に応じてマークアップあるいは利潤率が低下するため、需要上昇の効果以上にマークアップ下降の効果がより生産量を増加させるという意味であるが、筆者は以下の論文でどのような場合にマークアップが変動するかを、需要変動のみならず技術ショックや他の要因の場合も合わせて、より一般的な理論モデルを作成し検討し、さらにTobin's q理論と関連づけることにより動学的な調整メカニズムを考慮した。具体的には好況期にマークアップが下がることは生産拡大を通して投資を上昇させるが、これはq理論が利潤あるいはその割引現在価値が上昇するため投資が増加するというストーリーと逆の動きを示すことが分かる。つまり、countercyclical markupモデルにおいて極端なケースではqが動かないにもかかわらず、投資が変動する可能性が生じるのである。また他にも実質金利にたいする投資の不感応性や、体化された技術進歩と体化されない技術進歩の定性的な違いが起る条件などを導出した。さらに予備的ではあるが実証分析も行い、日本の投資行動が前述のモデルと非整合的ではない事を確かめた。
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