日本の現代の経営環境に適した原価理論を再構築する準備を行うことを目的として、現在の通説的ドイツ原価理論で仮定されているさまざまな前提が現在のわが国の経営にどの程度あてはまるかを業種ごとに明らかにするための質問票調査を行った。 質問票は、我が国の製造業の上場会社の中から250社を選択して、発送した。業種は、水産・農林、鉱業、建設、繊維、食料品、繊維、パルプ・紙、化学、石油・石炭、ゴム、窯業、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、機械、電気機器、輸送用機器、精密機器、その他である。 質問票の設計にあたり、従来のドイツにおける原価理論の文献の整理から、通説的原価理論を構成する様々な理論とその理論が前提としている経営現象を要素に分解し、それが現在の経営環境においてどの程度観察されるかを知る質問を行った。たとえば、現在の原価理論において極めて重要な概念である強度という概念が、各業種ごとに現在の経営環境でどのように観察されるかを質問した。また、現代のわが国の経営環境で経理担当者がとくに重要と感じ、原価計算に反映させたいと感じている現象は何かについても質問した。 質問票が回収できた企業は、そう多くはなかったため、必ずしも普遍妥当性をもつ結論は得られなかったが、我が国の環境にあった原価理論を構築するうえで、きわめて重要な示唆が得られた。通説的原価理論において重要な概念であった強度は、今日ではサイクルタイムという形でやはり経営の重要な概念として存在していることが確認された。しかしながら、強度と燃料消費量の関係のような技術的関係については関心が低いことが確認された。アウトプットの測定理論のような新たに原価理論モデルに組み込む必要があるわが国に特徴的な問題がいくつか確認されたが、具体的にどのようなモデルを作ったらよいかについては、今後さらに聞き取り調査等を行っていく必要がある。
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