研究概要 |
地層の層厚分布を確率論的に説明するコルモゴロフ理論を批判的な立場から検証した. 1.数値実験.平衡状態における静的マルコフ過程を前提とする層厚分布シミュレーションプログラム(1993-1994年,自作)を大幅に改訂し,これをさまざまな初期条件のもとで実行した.その結果,層厚分布(負領域の層厚も考える)の基本形は堆積確率p_d(0.5≦p_d<1)の値によって系統的に変わることがわかった.層厚分布形は,とくにp_d=0.50の近傍(i,e.,堆積と浸食がほぼ同程度の頻度と強度をもつ)で多峰形を呈し,p_d=0.51〜0.52付近で多峰形から負層厚側に偏った非対称単峰形へと劇的に変わる.単峰形,多峰形によらず,各峰の両翼は複合的幾何分布で精度よく近似できる.また層厚の正領域上に分布の峰が現れることはなく,実測可能な層厚分布はいつでも単一の幾何分布形となる(フィールドでは指数関数として出現).層厚の多峰形分布は,ある時点までにできあがっていた単峰形分布がその後の大きな浸食の際にまとまって負領域方向へ移動することによって生じる.コルモゴロフ理論からは多峰形分布が期待されないことから,同理論の前提条件の一部に大きな誤りがあると結論された. 2.タ-ビダイト層厚の実測.牟婁層群三尾川累層2145枚,三倉層群1294枚,合計3439枚の深海成タ-ビダイト(砂岩泥岩互層)について,単層砂岩部,単層泥岩部,砂岩部+泥岩部のそれぞれの厚さを測った.いずれの層厚分布形も簡単な指数関数で近似でき(少なくとも正規分布を仮定する場合よりも高い精度で),数値実験の結果と合致する.観察された層厚分布は複合的指数関数分布の正領域断片(truncated distribution)と解釈できる. 以上の成果を踏まえながら,現在,コルモゴロフ理論に代わる新しい理論("改良コルモゴロフ理論"と名付ける予定)を模索しつつある.
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