オワンクラゲやウミホタルの発光基質は共通骨格であるイミダゾピラジン骨格を有する。本研究ではイミダゾピラジン誘導体の化学発光反応における励起分子生成機構を明らかにするために、誘導体の物理科学的性質と化学発光能の相関を調べることを計画した。このため、まず6-フェニルイミダゾピラジン誘導体のフェニル基上のパラ位に系統的に置換基を導入した誘導体5種を合成した。この誘導体を用いて化学発光特性に及ぼす置換基効果を検討した。この結果、空気飽和条件下ジメチルスルホキシド中における化学発光の量子収率は置換基の種類に依存せず、0.1%付近の値をとり、蛍光量子収率と反応効率を考慮して算出した励起分子の生成効率は電子受容性置換基を有する方がわずかに上昇することがわかった。この結果は反応中間体に推測されているジオキセタノン中間体が分離して励起分子を生成する過程には置換基による電子的性質の変化があまり影響せず、生物発光にみられる高い発光量子収率を再現できないことを示している。置換基効果が顕著に現れる特性は発光後生成物の蛍光波長と蛍光量子収率である。特に発光後生成物の蛍光波長は電子供与性置換体ほど長波長シフトし、同時に蛍光量子収率が高くなることがわかった。また、ジメチルアミノ基置換体ではアニオン種よりも中性種の方が長波長部で蛍光を示す。この新しく見いだされた発光後生成物の特性を生かすためにジグリム中など他の条件下における化学発光の検討を続けている。 6-フェニルイミダゾピラジン誘導体の紫外可視吸収スペクトルとNMRを測定した結果、6位のフェニル基上の置換基効果が物理化学的性質に大きな影響を及ぼさないことがわかった。さらに酸素との反応に直接関与するアニオン種を安定に発生させる条件の検討を続けており、基本的物性データと化学発光特性との比較を行なう予定である。
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