研究概要 |
流体潤滑や境界潤滑条件下においては、潤滑油の剪断に伴う配向や摩擦により生じた固体の新生面の触媒活性により、潤滑油の分解が促進されることが知られている。この剪断場での分子配向と、剪断時に金属表面に生成される新生面の持つ触媒活性に期待し、実験をおこなった。まずはじめに、剪断に伴う分子配向を調べるために、ガラス毛細管の中に、光重合性の高分子のモノマーを入れポンプで、流しながら剪断をかけたが、偏光赤外分光法による分析では、分子の配向を確認することはできなかった。また、静止板と回転円筒の間にモノマーを塗布し、剪断場を顕微FTIRで観測した。ポリαオレフィン等の潤滑油では、剪断場で安定した油膜が形成され、弾性流体潤滑条件下という高圧条件下で、剪断による分子配向も確認された。しかしながら、モノマーを使用した場合には、剪断による分子配向が観測できないだけでなく、安定した油膜を形成しないものが多く、分子配向し関する有意な情報を得ることは、できなかった。また、金属新生面との反応については、まず、基礎的な反応に関して検討するために、潤滑油の油性剤として知られている各種脂肪酸、またはそのエステルについて検討した。2つの金属円筒の間に試料油を入れ、固体間の接触が起こる環境潤滑条件下で、摩擦実験をおこなった。金属円筒の表面の分析を顕微FTIR、ESCAで、実験後の試料油の分析をFTIR,NMRで行った。金属表面の分析では、反応性成膜の厚さが薄いせいか、IRによる化合物の同定は出来なかった。また試料油の分析では、特に脂肪酸エステル系の場合、分解生成物の脂肪酸とアルコールの生成が見られたが、他に顕著な結果は得られなかった。 以上の結果から、本年進めた条件では、剪断速度が不十分であると思われ、より摩擦新生面での分子配向および反応の研究を進めていくためには、さらに高剪断をかけられる装置の作成が必須である。
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