1)光学活性イソシアニドのデザインおよび合成 本研究においては光学活性な3級アルキルイソシアニドのデザイン及び合成が非常に重要であり、配位子の構造と選択性の相関に関する知見を得るためには様々な置換基を有する誘導体が容易に合成できることが必要である。さらに、パラジウム上に配位子の不斉環境を有効に発現させるために、リジッドな骨格を有するイソシアニドが効果的であると考えられる。これらの条件を満たすイソシアニドとしてカンファー骨格を有するものの合成を行なった。安価な出発原料である光学活性なカンファースルホン酸を、酸化反応によってケトピニック酸に導いた後に、クルチウス転位によって光学活性なアミノケトンを合成することができた。カルボニル基をLiAlH_4で還元することによりexo体の、液体アンモニア中カルシウムで還元することによりendo体のアミノアルコールをそれぞれ立体選択的に合成し、N-ホルミル化した後に水産基に様々な置換基を導入して、続いて脱水反応によってイソシアニドを合成した。 2)光学活性イソシアニドを配位子として用いた分子内ビスシリル化のエナンチオ選択性の検討 まず、1)で合成した種々の光学活性イソシアニドと酢酸パラジウムから生成する錯体を触媒として用い、3-ブテン-1-オール(ホモアリルアルコール)のジシラニルエーテル(1)の分子内ビスシリル化を行なった。エナンチオ選択性については得られた2をジオール3に誘導した後、キラルシフト試薬を用いてNMRによって決定した。 その結果、exo配位子4の置換基が水素、メチル基、n-ブチル基、t-ブチル基とかさ高くなるにつれエナンチオ選択性が向上することがわかった。また、ケイ素上の置換基のうちエーテル酸素を有するケイ素上にフェニル基を有する場合に最も高い選択性がみられたのに対し、メチル基の場合には選択性の低下および逆転が認められた。また、β位の立体が逆のendo配位子5を用いたところエナンチオ選択性の逆転が起こり、選択性の発現にはイソシアノ基のβ位の立体が最も強く関与していることも明らかになった。現在までに最高42%ee(R:S=71:29)の選択性が得られている。
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