研究概要 |
本研究で目指す定序性高分子の合成の基礎反応である、活性カルボン酸エステルへの環状スルフィド類および環状エーテル類の挿入反応について検討した。触媒として第四オニウムおよびクラウンエーテル錯体を用いたS-フェニルチオエステルと種々のチイラン化合物との反応は、容易にかつ位置選択的に進行し、対応する生成物が定量的に得られることが明らかとなった。この知見に基づき、ポリ(S-アリールチオエステル)(P-1)へのチイラン化合物の挿入反応による主鎖の変換について検討した。テトラブチルアンモニウムクロリドを触媒に用いて、3-ブトキシプロピレンスルフィド(BPS)とP-1との反応を非プロトン性極性溶媒中70℃で行った結果、反応は6時間で進行した。得られた高分子(P-2)の構造はIR、^1HNMRおよび^<13>CNMRスペクトルにより確認し、生成物は単一の構造を有する高分子であることが判明した。また、P-2の数平均分子量は1.8×10^4であり、P-1の0.3×10^4より大きくなった。したがって、P-1とBPSとの反応は選択的にかつ定量的に分子量の増加を伴って進行し、定序性高分子が得られたことが明らかとなった。この場合の定序配列は、P-1をA-B型高分子とすると、-A-C-B-C-となる。また、他のチイラン化合物を用いた場合にも同様に対応する定序性高分子が得られた。次に、定序性高分子P-2と環状エーテル類の反応を同様の条件で行った。環状エーテルとして3,3,3-トリフルオロプロペンオキシドを用いた場合、反応が副反応なしに定量的に進行し、目的とする-A-C-D-B-D-C-の定序配列を有する高分子が得られた。これらのことから、環状スルフィド類および環状エーテル類のエステル結合への挿入反応を利用した高分子の二段階主鎖変換により、多元定序配列を有する高分子が容易に得られることが明らかとなった。
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