プリオンはヒトなどに海綿状脳症を起こす病原体である。その本体は、通常の病原体と異なり、核酸を含まず、主に蛋白から成るという説(プリオン仮説)が有力な考えとなっている。つまり、正常宿主がコードしているプリオン蛋白(PrP^C)の高次構造が変化したもの(PrP^<SC>)が、PrP^CをPrP^<SC>にする能力を持つという機構によって、この蛋白が感染性(複製能)を有する理由が説明されている。 確かに、"予めPrP^<SC>が存在すれば"、正常な高次構造のPrP^CがPrP^<SC>に変化するのを試験管内で観察することができる。しかしながら、プリオン増殖の第一歩である、"自然発生的な"、PrP^CのPrP^<SC>への変化は生体内でしか起こらず(家族性プリオン病、トランスジェニックマウス実験)、試験管内で再現されていない。本研究は、このステップを試験管内で起こす試みである。 この目的のため、報告者は、i)正常マウスプリオン遺伝子のクローニングを行い、ii)これの変異体を数種作成し、iii)これら変異体蛋白を培養細胞で発現させた。発現蛋白の高次構造の検定はプロテアーゼ感受性の有無を調べることによって行った。 その結果、i)発現した変異体蛋白はプロテアーゼ耐性ではなく、また、ii)これらは、共発現した正常PrP^Cをプロテアーゼ耐性にはしなかった。 現在、変異体蛋白をウサギ網状赤血球ライゼ-トの系で発現させる実験を行っており、これら変異体蛋白の生体膜への転移状態を調べている。この実験で変異体蛋白の白の性状を明らかにすることにより、本研究成果として公表に持っていきたい。
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