代表的な神経成長因子ファミリー(ニューロトロフィン)NGF、BDNFおよびNT-3の受容体(trk)のマウス骨芽細胞株MC3T3-E1における発現について検討した。3者に共通の塩基配列部分でプライマーを作製し、RT-PCRを行ったところ、目的のPCR産物を検出し、そのDNA断片の塩基配列を決定した結果、trkCであることが判明した。MC3T3-E1におけるtrkCの発現は、細胞の増殖期に最も強くみられた。また、trkCの変異体遺伝子であるC14(アミノ酸14個が挿入されたもの)もMC3T3-E1で発現していることが明らかとなった。MC3T3-E1で発現するtrkCの生理的機能について解析するため、MC3T3-E1培養系にtrkCのリガンドであるNT-3を添加したところ、濃度依存的にMC3T3-E1の増殖が促進されることがわかった。また、細胞内Ca^<2+>濃度測定により細胞膜でNT-3とtrkCの結合によると思われるCa^<2+>流入がおきることが確認された。さらにこの増殖促進作用は抗NT-3抗体や抗trkC抗体によって阻害されることからNT-3のtrkCへの結合による直接作用であることが判明した。このように昨年度からの一連の本研究によって代表的神経栄養因子であるニューロトロフィンが骨芽細胞株で産生され、そのうちの一つNT-3は骨芽細胞株自身がもつその受容体TRKCにオートクリン的に作用し、骨芽細胞の増殖を誘導することが明らかとなった。ニューロトロフィン、特にNT-3の非神経的な新しい作用の発現は骨系細胞においてはもちろん末梢系全体でみても初めての例で、NT-3は骨代謝における初期段階で骨形成を促進するものと考えられる。
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