アミド結合との立体構造および電荷分布の類似性が示唆されているフルオロビニル基を側鎖に有する新規光学活性アミノ酸を合成し、それらを組み込んだ修飾ペプチドのフッ素導入によって期待される特徴的な機能の解析を試みることを計画した。当該年度は有機セレン試剤を用いた反応を鍵段階としてフルオロビニル側鎖を有する新規光学活性アミノ酸を効率的に合成するための手法の確立に重点を置いて研究を進めた。まず、L-グルタミン酸から容易に誘導されるN-フタロイルアリルグリシン メチルエステルをモデル化合物として選び、臭化ベンゼンセレネニルとフッ化銀からin situで発生させて得られるフッ化ベンゼンセレネニル等価体によるフルオロセレン化反応を試みた。11%の単離収率ではあるが、対応するフルオロセレニドが位置選択的に得られたことから、基質にイミド基やエステル基が共存していても、炭素-炭素二重結合へのフルオロセレン化反応が進行することが確認できた。現在、収率を向上させるべく、反応条件の最適化を行っている。また、N-ベンゾイルビニル グリシンメチルエステルに対しても、同様のフルオロセレン化反応を試みたが、望みの反応は進行せず、対応するフルオロセレニドの生成を確認することはできなかった。さらに、関連した研究において、α-フルオロ-β-シリルスルホン試剤を用いたカルボニル化合物(ケトンおよびアルデヒド)のフルオロビニル化反応を開発し、Synlett誌に発表した。今後、α-フルオロ-β-シリルスルホン試剤を用いたフルオロビニル基の導入反応やキラル補助基による不斉アミノ化反応などについても合わせて検討していきたい。
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