研究概要 |
申請者はこれまでの血小板や種々の培養動物細胞を用いた研究の過程で、アラキドン酸の代謝産物であるある脂質が培養繊維芽細胞においてアデニレートシクラーゼを強く抑制することを発見した。そしてその作用機序を検討して行くうち、細胞が作ったcAMPがほとんど細胞外に出されていることに気付いた。cAMPの生理的意義についてはこれまで多大の研究がなされ、細胞内セカンドメッセンジャーということでその役割はすっかり解明された観があるが、細胞外に積極的に排出されるcAMPの生理的意義に関してはこれまで全く省みられていない。本研究はcAMPが粘菌以外の生物においても細胞外で何らかのシグナル伝達分子として機能しているのではないかという仮説の元に、cAMPの各種細胞への作用を今一度詳細に検討することを目指してはじめた。アラキドン酸の代謝産物である12-hydroxyeicosatetraenoic acid(12-HETE)が培養繊維芽細胞においてcAMPの細胞外への放出を強く抑制することを発見していたので、まずこの12-HETEの作用を詳細に検討することから始めた。培養繊維芽細胞をPGE_1等のアゴニストで刺激するとcAMPが産生されると同時に細胞外にそのほとんどが排出される。これにたいして、アデニレートシクラーゼを直接活性化するフォルスコリンで刺激したときにはあまり細胞外には排出されなかった。そしてこのときのcAMPの産生には12-HETEはあまり影響を与えなかった。さらに、細胞を破砕して得た膜分画を用いて同様な実験を行ったところ、12-HETEは影響を持たず、12-HETEがアデニレートシクラーゼを直接に阻害しているのではないことがわかった。つまり12-HETEは酵素活性そのものと言うより,cAMPの細胞外への排出機構のどこかを阻害している可能性がある。よって12-HETEをプローブとしてcAMPの排出とその意義をいろいろな細胞で調べることができれば本研究の目的をさらに進めることができると思われる。
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