原索動物(ホヤ)は古くからモザイク的発生を行うことで知られてきた。単離割球が自律分化能を持っていることから、ホヤ胚発生における組織分化決定は、卵細胞質中に局在して存在する組織決定因子が、卵割を通して特定の割球に配分されることにより行われると推測されてきた。近年、我々は胚細胞解離実験や融合法を用いた細胞質移植実験により、筋肉、内胚葉、表皮分化が卵細胞質にあって局在している何らかの因子によって引き起こされることを実証してきた。これらの細胞質因子が何であるのか、またどのようにして働くのかを知るためには、因子の精製、同定を行う必要がある。そこで、卵細胞質内組織決定因子の精製の試みをスタートした。 その手始めとして、マボヤ未受精卵の細胞質を遠心により分層し、各層ごとに切断した後、それぞれの卵片を8細胞期胚の単離割球と細胞融合し発生させ、各組織の決定因子が遠心力によりどの層にくるかを検定した。その結果、残念ながら表皮、内胚葉、筋肉決定因子ともに、特定の層に集中して分布することはみられなかった。 現在、未成熟卵巣、卵母細胞、未受精卵、受精卵からmRNAを精製し、卵に顕微注入した場合、何らかの発生異常が引き起こされるかを調べている。また、これらのmRNAを単離した割球に注入し、発生運命の変更が起きるかどうかを検討している。
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