(目的)低酸素になると脳の高エネルギー化合物濃度は解糖系などからも供給されるが最終的には減少する。ところが実測のATP濃度が減少する前に神経活動は低下する。酸素不足が誘起する脳機能低下を検討するために灌流脳を用いて分光学的にチトクロームオキシダーゼ(Cyt.ox.)の酸化状態を脳波とともに測定した。(方法)in situ灌流にした点を除いて、Inagaki and Tamura(1993)の方法に従ってモデルを調製した。(結果と考察)定流量灌流で酸素濃度を低下させたときの脳波の徐波化とHeme aa3の酸化状態の間に高い相関が認められた。また低酸素による脳波の消失後、ビククリンを投与するとてんかん発作を起こした。酸素不足による脳機能の低下は、ATP合成の低下によって通常の電気的神経活動の維持に必要なエネルギー需要を賄えないが、短時間の神経活動が可能なATP濃度を維持するというエネルギー保存機構の一面を表わすと考えられる。本研究の結果はDuffy et.al(1972)の神経活動の低下がエネルギー不足を回避するための応答であるという提案を支持するものである。灌流モデルでは頸動脈小体は機能していないので、考えられるエネルギー保存機構としては、酸素に対してCyt.ox.より高いkm値をもつ神経伝達物質の生合成系の活性低下やミトコンドリアの膜電位維持機構などが挙げられる。
|