主に昨年度、研究を行った、各種アミノ酸分子の炭素、窒素、酸素の内殻励起領域の円偏光軟X線吸収スペクトルの理論的解析結果を、今年度、国際誌で発表するとともに、国外と国内で開催された国際会議でも発表した。 今年度の新たなテーマとして、簡単な分子である酸素分子とアセチレン分子の特徴となっている非常に複雑な直線偏光軟X線吸収スペクトル及び共鳴光電子スペクトルを取り上げ、それらの実験データの背景にある物理現象を理解するために理論的に研究した。用いた方法は、電子状態部分については静的交換ポテンシャル法と配置間相互作用法であり、核運動部分については波束計算である。その結果、内殻から価電子性の軌道への励起と内殻からRydgerg性軌道への励起が共存して非断熱遷移することがスペクトルの複雑さの背景にあることを明らかにした。また、解離は主に価電子性の反結合的な励起状態から起きるが、振電相互作用によってRydberg状態の存在が解離ポテンシャルをゆがめることもわかった。さらに、Rydberg状態は広がりが大きく、周りの分子との相互作用が大きいために、分子間相互作用系である分子クラスターや分子固体では解離現象が大きく変化を受けると考えられ、理論的にその様子を再現し、実験結果を解析する方法を確立させた。来年度は約4ケ月しかないが、これらの成果を論文にまとめ国際誌に発表するとともに、国外の国際会議2件でも発表する。
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