昨年度に引き続き、アセチレンの炭素1s内殻領域での直線偏光軟X線吸収内殻励起スペクトル(ARPIS)及び内殻励起共鳴オージェ電子スペクトル(RAS)の理論解析を行った。用いた方法は、電子状態部分については静的交換ポテンシャル法と配置間相互作用法、核運動部分については波束計算である。直線偏光軟X線吸収スペクトルの偏光方向依存性の理論解析によって、内殻から価電子性の軌道への励起状態のうち、縮退している状態が対称性を低下させてより安定な状態に移る振電相互作用効果がスペクトル的にどのように観測されうるかという問題に取り組み、変角振動と伸縮振動の両方の寄与と内殻励起状態の寿命を正しく扱うとπ^*性及びσ^*性の空分子軌道への最低励起状態に対応する実験スペクトルの違いと直線偏光依存性をうまく説明できることがわかった。一方、共鳴オージェ電子スペクトルで観測される振動構造の励起エネルギー依存性の理論解析によって、変角振動と伸縮振動の寄与の仕方が観測方向によって異なることの説明に成功した。比較に使った実験スペクトルは世界最高分解能の国内SPring-8施設とフランス・パリ郊外SOLEIL施設で共同研究者とともに測定したものである。その成果は平成20年6月にスウェーデンとフランスで開催された「光イオン化国際ワークショップ」と「X線及び内殻現象に関する国際会議」で発表し、その際、スウェーデン及びフランスの共同研究者と詳細について議論した。これらの成果に関しては、現在、論文執筆中である。
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