研究概要 |
BINAP-Ru錯体触媒を用いるβ-ケトエステル類の不斉水素化法が1986年に、BINAP-Ru-ジアミン錯体触媒を用いる芳香族ケトン類の不斉水素化が1995年に報告されて以来、ホスフィン系配位子の重要性はより一層高まり、最も大きな配位子群を形成するに至っている。本研究者らはこの主流から離れ、1960年にGoodwinとLionsによって報告されたsp2N/sp3N混合系の四座配位子に焦点を置き、新たな反応性や選択性の獲得を目指している。今年度は、ルテニウム錯体触媒を用いるケトン類の不斉水素化を取り上げ、3,3'位にアリール置換基を有する1,1'-ビナフチル-2,2'-ジアミン(Ar-BINAN)配位子の有効性を検証した。その結果、[(R)-Ph-BINAN-H-Py]=[Ru]=[t-C_4H_9OK]=2mM、[アセトフェノン]=2M、2-プロパノール溶媒、無触媒熟成、50気圧、25℃を標準として、様々なルテニウム前駆体を調査した結果、Ru(p-CH_2C(CH_3)CH_2)_2(cod)を用いると、反応は円滑に進行し、15時間後には、96.5:3.5の鏡像面選択性で(R)-1-フェニルエタノールと体が定量的に得られることを見いだした。テトラロンは不斉収率99%で水素化される。ホスフィン系にて一般的に用いられる[RuCl_2(cod)]nや[RuCl_2(C_6H_6)]_2を用いたり、3,3'位のフェニル置換基のないH-BINAN-H-Py配位子を用いると反応性・選択性ともに著しく低下する。本触媒系は基本的には強塩基を用いなくてもよく、酸性度の高いインダノンも水素化することができる。この非環状四座配位子が正八面体錯体を形成する際、cis-α、cis-β、trans等の異性体が可能となる。これら異性体のそれぞれが独自の反応性と選択性を有するので、触媒性能はこれらの貢献度の平均値となる。3,3'位にフェニル置換基が導入されることによってcis-α異性体に種が単一化されることが高選択性発現の要因の一つであると考えている。Ph-BINAN-H-Pyの効率的合成法も確立し、その他の触媒反応探索のための物質基盤も構築することができた。
|