研究課題
本研究は2006年〜2008年の間の24ヶ月に渡り、霊長類研究所(犬山)と鹿児島県屋久島西部林を研究拠点にし、生息する野生ニホンザルを対象に調査を行った。個体識別によって、16メス個体の行動観察、対象群れの生息地中の採食可能な食物(植物、昆虫等)、実際に摂取する食物の量を測定、定期的にサルの糞を採集、6週間おきに犬山に戻り、集められた資料の分析やデータ整理をした。20年度の分は9月初めまで続いた。全調査は計画通り終了した。合計519.5(1,039/30分セッション)観察時間を得て、対象個体から159糞サンプルも採集した。これらの資料を用いて解析をした結果、ニホンザルの腸内寄生虫種のダイナミクスについていくつもの新しい視点を得ることができた。一番多く検出された寄生虫の2種はStreptophargus pigmentatusとOesophagostomum aculeatumである。S.pigmentatusは、サルに感染するためには中間宿主である昆虫を通して宿主に食べられなければならない。本調査の研究では、屋久島ニホンザルが採食するOnthophagus lenzii(糞虫)がその中間宿主であることが明らかになった。この糞虫の活動状態を示す月別捕獲率は強い季節性を示しており、サルたちが一番多くの昆虫を採食した真夏にもっとも高くなっていた。実際、集めたO.lenziiから、この寄生虫の幼虫が見つかり、S.pigmentatusの生活環に突き止めるごとができた。また、O.aculeatumに関しても、強い感染の季節性を認めることができた。それは、雨の一番多い時期と重なることがわかった。一方サルの行動観察によってメス間の順位関係を明らかにした。現在、各寄生虫種の感染の度合いと年齢、性別、社会的順位による感染度の変異や寄生虫のバイオマスの社会的および季節的な変異を解析している。予備的な結果として、メスのストレスホルモン量(糞中のcortisol濃度)を計ってストレスと順位の間の関係を調べたところ、低順位個体の方が糞虫のcortisol濃度が高いことが分った。これらの成果をいくつもの論文にわけて作成しているところである。
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In : Primate Parasite Ecology (eds. MA Huffman & CA Chapman, Cambridge University Press
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In : SA Wish, SS Utami, TM Setia & CP van Schaik (eds. ). Orangutans-ecology, evolution, behavior and conservation, Oxford University Press
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In : Primate Parasite Ecology (eds. MA Huffman & CA Chapman Cambridge University Press
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