研究課題/領域番号 |
06F06213
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金子 豊二 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授
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研究分担者 |
李 慶美 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 外国人特別研究員
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キーワード | 浸透圧調節 / 狭塩性淡水魚 / キンギョ / 塩類細胞 / 蛍光免疫染色 / 走査型電子顕微鏡(SEM) |
研究概要 |
生物が生存するために体内の環境を一定の範囲内に保つことは必須である。これまでに広塩性淡水魚で詳しい浸透圧調節機構が調べられているが、狭塩性淡水魚では未だ不明な点が多い。そこで狭塩性淡水魚のモデルとしてキンギョを用い、その浸透圧調節機構について調べた。まず、脱イオン水、淡水、様々な希釈海水にキンギョを淡水から直接移行して3日後の生存率を調べるとともに、生残個体の体液浸透圧を測定した。その結果、脱イオン水から35%希釈海水付近までが生存できる塩分濃度の範囲であった。また淡水から徐々に環境浸透圧を高めた場合でも45%希釈海水付近が限界であった。このことからキンギョには50%希釈海水以上の高浸透圧環境に適応できないことが示された。体液浸透圧は、いずれの環境水中でも環境水浸透圧よりも高かったが、環境水が高張になるほど体液と環境水との浸透圧差は縮まった。このことはキンギョの塩類細胞は外界の塩分濃度が高まってもイオンの排出を行えないことを示唆している。 次に、脱イオン水、淡水、30%希釈海水で飼育したキンギョの鰓を蛍光免疫染色および走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。蛍光免疫染色によると、塩類細胞の密度は30%希釈海水で他の群に比べ低かった。これは、塩類細胞の密度を低くすることで、イオン取込を抑制するためと考えられる。一方、淡水群と脱イオン水群間では塩類細胞の密度に大きな違いは見られなかった。また、SEMによる観察から、細胞が外界に接する頂端膜の面積は、脱イオン水で特に大きかった。これは、環境水と接する部分を広くすることでイオン取込み効率を上げているものと考えられる。 以上の結果より、キンギョはイオン排出型塩類細胞を欠くため高浸透圧環境には適応できず、淡水に特化した浸透圧調節機構を有すると考えられる。しかし、塩類細胞の密度と個々の細胞のイオン取込み強度を変えることで、ある程度の塩分濃度までは対応できることが示された。
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