M-Ras及びM-RasのH-Ras型アミノ酸置換変異体の高次構造解析により決定した、GTP結合型ながら標的蛋白質との結合能力を持たない型(state1)の高次構造情報にもとづき、バーチャル化合物ライブラリー(140万種類規模の化合物情報を含む)から、NEC独自のMMPBSA法によるドッキングシミュレーションによって、state1のポケットにエネルギー的に安定に結合する可能性が高いと予想された100種類の候補化合物を購入した。これら候補化合物によるM-Ras変異体-GTPならびにH-Ras-GTPとRafとの結合阻害試験を行った結果、M-Ras変異体に対しては12種類のヒット化合物が得られ、そのうち2種類についてはH-Rasに対する活性も有することが分かった。また、H-Rasに対するヒット化合物2種類については、表面プラズモン共鳴法(BIACORE3000)による結合試験を行ったところ、1種類の化合物(以後#65とする)についてはH-Rasに対する結合活性を有することが明らかになった。ITC法を用いて測定した#65のH-Rasに対する結合定数は、同様に測定したRafのH-Rasに対する結合定数に比較的近い数値を示した。さらに、化合物存在下でH-Ras-GTPの^1H-NMRを行ったところ、化合物の結合によるH-Rasの構造変化と考えられる信号を検出することができた。#65以外のH-Rasに対するヒット化合物#10については、state2構造のみで存在するRap1AとRafとの結合は抑制せず、H-RasとRafとの結合を選択的に阻害することが明らかになった。
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