研究概要 |
M-Ras及びM-RasのH-Ras型アミノ酸置換変異体の高次構造解析により決定した、GTP結合型ながら標的蛋白質との結合能力を持たない型(state 1)の高次構造情報にもとづき、バーチャル化合物ライブラリーから、NEC独自のMMPBSA法によるドッキングシミュレーションによって、state 1のポケットにエネルギー的に安定に結合する可能性が高いと予想された100種類の候補化合物を購入した。これら候補化合物によるM-Ras変異体-GTPならびにH-Ras-GTPとRafとの結合阻害試験を行った結果、H-Rasに対してRas-Raf結合を強く抑制するヒット化合物kobe0065が得られた。また、kobe0065存在下でH-Ras-GTP(GppNHp)の^<31>P-NMR測定を行なったところ、化合物非存在下での測定結果と比較してstate 1の存在割合が優位に増加していた。この結果は、kobe0065がH-Rasの遷移をstate 1側へずらしstate 1の安定化をはかることにより、Ras-Raf結合を抑制する活性を有することを強く示唆していた。さらに、kobe0065の構造情報に基づき、Tanimoto係数を使用して選抜した50種類の構造類似化合物を用いて同様の試験管内Ras-Raf結合阻害試験を行なった結果、H-Rasに対してkobe0065と同程度の活性を示す3種類のヒット化合物kobe2601,kobe2602,kobe2649が得られた。いずれもkobe0065と同様に濃度依存性のRas-Raf結合阻害活性を示した。kobe0065を含む4種類のヒット化合物の間には共通の母核構造が確認されている。なお、4種類の化合物存在下で、活性型H-ras遺伝子を導入した癌化細胞株NIH3T3細胞のコロニー形成能力を調べたところ、ヒット化合物の癌化形質抑制活性を確認した。
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