研究概要 |
チオレドキシンはその活性部位の2つのシステイン残基間のdithiol/disulfide交換反応により、抗酸化、抗炎症、抗アポトーシス作用を示すレドックス制御蛋白である。われわれは、遺伝子組換えヒトチオレドキシンの持続静注が、急性肺障害をはじめ種々の炎症性疾患に対して著明な抗炎症作用を示すことを報告してきた。しかしながら、この抗炎症作用のメカニズムについてはいまだ不明な点も多い。今回われわれは、チオレドキシンと結合する血漿蛋白としてapolipoprotein A-I,scavenger receptor cysteine rich domain,fibrinogen,albumin,complment factor Hの5つの蛋白を同定した。このうち、complement factor Hはその遺伝子異常が加齢黄班変性症で認められる補体活性化制御因子である。そこで加齢黄班変性症モデルとしてマウス網膜へのレーザー照射による脈絡膜血管新生モデルを用い、チオレドキシンの効果について検討した。ヒトチオレドキシンを過剰発現するトランスジェニックマウスでは、対照マウスと比較し、レーザー照射による脈絡膜血管新生は抑制された。その機序として、補体の沈着および好中球の浸潤が抑制されていた。ヒト血漿中ではチオレドキシンとcomplement factor Hが結合するほか、in vitroでは、チオレドキシンとcomplement factor Hは相加的に補体の活性化を抑制した。以上より、チオレドキシンはcomplement factor Hとともに補体活性化を抑制し、好中球浸潤や血管新生を抑制することが示唆された。これはチオレドキシンの抗炎症作用のメカニズムの一端を明らかにするとともに、チオレドキシンが加齢黄班変性症の新規治療剤としても有望である可能性を示唆するものである
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