研究概要 |
昨年度、我々はラットにAngiotensin IIを持続投与することにより作製した動物モデルの心臓において、臨床用量のスタチン(アトルバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン)はRho/Rho-kinase経路は阻害せず、Rac1経路を抑制することを見出した。そこで、本年度ではこのスタチンのRac1選択的な抑制作用がヒトにおいても認められるか検討した。 健康成人ボランティアにスタチン(アトルバスタチン、プラバスタチン各20mg/day,1日1回)を1週間内服してもらい、投薬前後でそれぞれ末梢静脈より採血し、好中球を単離した。投薬前後で好中球におけるRho、Rho-kinase、Rac1活性を分子生物学的手法を用いて比較した結果、スタチンはRho/Rho-kinase経路は抑制せず、Rac1を有意に抑制していることを見出した。これらの結果は、我々が動物モデルにおいて明らかにしたスタチンのRac1選択的な抑制作用がヒトにおいても同様に働いていることを示すものであり、スタチンが持つ多面的作用の作用機序として、Rho/Rho-kinase経路の阻害ではなく、Rac1阻害が主な作用機序である可能性を示唆している。 本研究の成果から、近年心血管病に対して有効である可能性が示唆されているRho-kinase阻害薬とスタチンの作用機序が異なっており、両者の併用という新たな心血管病の内科的治療法の可能性が見出された。われわれは上記の研究成果を日本心脈管作動物質学会、および日本循環器学会総会・学術集会にて発表した。また、これまでの成果をまとめ、学術論文として投稿中である。
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