研究概要 |
ダウン症は、約10%の症例にTransient myeloproliferative disorder(TMD)という前白血病を発し、その20〜30%は生後4年以内に急性巨核球性白血病(DS-AMKL)を発症する。本年度は、ダウン症の白血病発症の仕組みを分子レベルで明らかにするために研究を進め、以下の点について明らかにした。 1.21番染色体上のTMD責任候補遺伝子の一つであるRUNX1転写因子に注目し、解析を行った。その結果、GATA1がそのzinc fingerドメインを介してRUNX1と結合することを見出した。患者特異的GATA1変異体はそのzinc fingerドメインを介してRUNX1と結合し、GATA1とRUNX1の結合配列を持つ巨核球特異的なGPlbαプロモーターを相乗的に活性化した。この結果より、DS-AMKLの原因は、GATA1とRUNX1の相互作用の喪失のためではないことが明らかとなった。 2.TMDからAMKLに進展する時に加わるGATA1遺伝子以外の遺伝子変異を解析した。Pan JAK inhibitorによって、解析した3種類すべてのDS-AMKL細胞株の増殖と生存率が著しく低下した。そこで、JAKファミリーの遺伝子(JAK1,JAK2,JAK3,TYK2)の塩基配列を解析したところ、2つのDS-AMKL細胞株でJAK3遺伝子の変異が検出された。Ba/F3細胞にレトロウイルスベクターを用いて変異JAK3を発現させたところ、IL-3非依存性に増殖が認められ、活性化変異であることが明らかとなった。 3.TMDからAMKLに進展したダウン症症例のGATA1遺伝子変異を解析した結果、主なTMDとAMKLのクローンが異なる例を見出した。TMDの段階では複数のGATA1遺伝子変異をもつクローンが存在し、その中のどれかからAMKLが進展することが明らかとなった。
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