本研究は、不確実性下での地球環境政策の決定プロセスとその枠組み構造を理論的かつ実証的に分析することに目的をおく。今年度は環境保全措置による効果がどのようなメカニズムを通じて社会に影響を与えるかを理論的アプローチによって検討した。それは益々密接な国際経済関係下で、環境保全を目的とした貿易措置が地球環境に与える影響と戦略的貿易措置を通じた国際競争力改善の構図を解明するのに重要である。 具体的には地球温暖化問題のリーダー的存在としてEUが京都議定書から離脱した米国と経済成長に伴い急激な温室効果ガスが増加している中国を相手とし、国境税調整措置による国際炭素税を導入した場合、相手国(米国、中国)への経済・環境への影響とEUへの影響、そして、国際貿易を通じた世界経済・環境への影響をシミュレーション分析することで国際炭素リーケージ効果を計測した。その結果をみると、米国を相手としたEUの国境税調整は環境改善効果があまり期待できない。一方、中国のような途上国を相手とした場合は環境改善効果が大きく、相手国の経済的ダメージも大きい。さらに、世界経済と環境への影響は米国のケースの場合、GDP拡大とCO2排出増加が予想され、EUの米国を相手とした戦略的貿易措置はむしろ地球環境を悪化させる恐れがある。また中国の場合は世界経済へのマイナス効果よりCO2削減効果が大きく、地球環境改善には有効的ともいえるが、このようなEUの提案が相手国の報復措置を招き、国際的にも支持される情勢ではない。国境税調整措置による地球温暖化問題へのアプローチは慎重である必要がある。そのため排出権取引市場やCDMなどの柔軟性措置の活用とともに、国内措置や技術開発、そしてエネルギー転換など相互補完的施策をパッケージとした共同体アプローチの議論が重要となり、ポスト京都に向けた国際協調システムの形成においても益々重要な政策課題となる。
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