濾紙上に捕集できる懸濁態有機物と共に、脱塩・濃縮が可能な溶存有機物高分子画分について、陸起源性高分子有機物、海洋性有機物を生産する動物、植物、細菌に由来する分子を区別しつつ、それらの動態を解明する。 伊勢湾は、本州中央部に位置する閉鎖性内湾で、広大な集水域を有する木曽三川を中心に陸起源性有機物が負荷される一方、富栄養化による高い基礎生産による海起源性有機物の負荷も大きい。このような伊勢湾を南下すれば、そこには世界の海洋環境のなかで、最も貧栄養海域である黒潮海域が存在している。本研究が対象とする海域は、上記研究目的達成には理想的モデル海域と言える。 炭水化物を官能基にもつ糖脂質が比較的多く存在する沿岸海水中の全脂質について、プロトン核磁気共鳴法及びガスクロマトグラフィー質量分析計等により化学組成を決定し、同一試料の^<14>C年代を決定した。水深5mで得られた全脂質及び溶存有機炭素の^<14>C濃度(^<14>C年代)は、伊勢湾湾奥ではそれぞれ72.32±2.01pMC(2600 yr BP)及び93.48±2.03pMC(540 yr BP)、相模湾湾口ではそれぞれ41.31±1.64pMC(7100 yr BP)及び95.25±2.09pMC(390 yr BP)であった。いずれの試料についても全脂質の^<14>C濃度は全有機炭素のそれに比べて低い。この結果は、同一海水中の溶存有機物であっても成分により動態の時間スケールが異なっていることを示唆している。
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