研究概要 |
今年度は,KPP型(単安定型)拡散方程式に現れる進行波を扱い,周期的な係数の場合にLiang氏が確立した抽象論が準周期的あるいは概周期的な場合に拡張できるかを考えた. 以前,俣野がフランスの研究者とこの問題を研究した際には,トーラス上の退化した楕円型作用素の固有値問題を扱う必要があったが,いわゆる「小分母の困難」が生じて解析が壁にぶつかっていた. 来日する前にLiang氏は,進行波を実数の集合あるいは整数の集合から順序保存Banach空間への写像としてとらえることにより,順序保存力学系の理論の枠組みで進行波を扱う抽象的なアプローチを確立していた.この方法を用いれば,比較原理が成り立つさまざまな発展方程式に現れる進行波問題を統一的な観点から研究できる.単安定型の場合には,適当な条件の下で進行波の存在や漸近速度の評価を示した.また,この理論を用いて,空間周期的な媒体における反応拡散方程式(系)や時間遅れのある偏微分方程式系や積分微分方程式などにおける進行波問題を考察した. Liang氏の方法は俣野の以前の方法とは別のアプローチであり,「小分母の困難」を克服できた.しかしながら,これまでより弱い形の進行波の定義を採用しないとうまくいかない可能性もあり,幾つかの具体例を通して,適切な進行波の定義を模索する作業も行っている.来年度は進行波の弱い意味での定義を確立し,それに基づいて進行波の存在証明を完成させることを目指す.
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