研究概要 |
本研究では,電気伝導性の分子性導体において発生を確認した自発分極の基礎的性質を理解するために,分極発生が観測される物質群の拡大を目指している。研究の推進には,分極が予想される物質を探索・合成することと同時に,官発分極発生の様子を確認する手段の確立が不可欠である。これまでの研究により,自発分極した試料は非常に大きな光第二高調波発生(SHG)を示すことがあきらかになっており,この性質を利用して我々は,分極の確認手法の一つとしてSHGを利用した顕微分光測定による分極ドメインの可視化を検討している。この実験では入射光と信号光の偏光を別々に制御することが必要なため,それぞれの光偏光を自由に制御できる透過測定が好ましい光学配置となる。有機伝導体は測定を行う近赤外領域で弱い光吸収をもつために,この実現には10ミクロン程度以下の薄膜状結晶が必要とされる。ほとんどの有機伝導体では,光学測定が可能な面積を持つ単結晶は100ミクロン以上の厚みに成長してしまうが,既に分極発生の確認を行ったα-(BEDT-TTF)_2I_3の場合,限られた確率ではあるが3ミクロン程度と極めて薄い単結晶が得られることがある。本年度は,上記の分極ドメイン観測を試行するための試料を確保するためにα-(BEDT-TTF)_2I_3結晶の合成を行い,透過光学実験に適した良質な薄膜状単結晶を得た。
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