がん細胞はT細胞が標的とするMHCの発現を低下させるなど、その攻撃から免れている。このため、T細胞をがん細胞に標的化したり、がん細胞特異的な殺傷能を有する新規治療薬の開発は望まれている。そこで、本研究は、MHCとリンパ腫上に高発現しているCD19等に対する一本鎖抗体(scFv)との融合分子、あるいは、がん細胞にのみ強力なアポトーシスを誘導するTRAILを遺伝子工学的に融合した抗体の構築を目指す。さらには、これらを組み合わせた融合タンパク質の構築も試みるなど、Bリンパ腫を中心とする悪性腫瘍に対する多機能性融合抗体の開発を目的としている。本年度の研究成果は以下の通りである。 TRAIL単独分子は、大腸菌不溶性画分から段階透析法を用いた巻き戻しによる調製では、活性の低下が見られるが、昨年度、DDTによる還元処理と亜鉛の添加により、活性を回復させることに成功した。本年度は、高機能性TRAIL分子の創製を目指した多量体化を行った。まず、市販のTRAIL分子のビオチン化を行い、ストレプトアビジンを介して四量体化させ、がん細胞の成長阻害試験により、機能の低下等がないことを確認した。続いて、ビオチン化配列を導入した組換えTRAIL(bio-TRAIL)の発現ベクターを構築し、構築した巻き戻し法を用いて、bio-TRAILを調製後、同様にストレプトアビジンを介して四量体化させ機能評価を行った。結果、市販のTRAIL抗体と同様に機能が低下しないことを確認した。また同様に昨年度、調製に成功した抗EGFR抗体528一本鎖抗体(scFv)とTRAILの融合タンパク質の、治療分子としての可能性をさらに高めるための、ヒト型化したscFvとの置換、およびBリンパ腫に対しての適用を見据えた抗CD19抗体の利用に関する技術基盤を確立した。
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