本研究は3年に渡り、主に、(1)家族請負制に関する制度分析、(2)家族請負制と農地流動化に関する実地調査研究、(3)農地流動化システムの形成、(4)高地代形成のメカニズムの四点に絞って分析・調査を行った。その結果は以下のとおりである。 (1)1949年新中国成立後の農地制度の変遷を辿り、家族請負制に基づく中国の零細家族農業経営の形成、及び農地流動化の推進と大規模経営の形成を制度的に明らかにした。 (2)中国西部地域における家族請負制、「30年不変」政策および請負農地経営権の譲渡に関する農家の意識並びにその形成要因、農地流動化の可能性について分析を行った。 (3)政府機関、農業大規模経営体と農地の貸し手を対象に、重慶市、山東省と江蘇省で実地調査をした結果、基本的には大規模経営体⇔集団経済組織⇔農家という農地流動化システムが機能していることが分かった。しかし、この体制では農地需給の情報や地代水準を評価する情報が不足していると指摘される。それに対して、調査した三つの地域では農地流動の仲介組織が形成され始めており、零細な農地流動を中心に大きく機能している。 (4)重慶市、山東省と江蘇省との三地域では、500kg/10a(籾)を超える地代が一般的であり、これは稲作の自作収益を明らかに上回る。その理由として、農地の供給側を見ると、貸出(供給)農家は超小規模で、他産業から得る収入の機会が少ないために、農地賃借の機会費用が自作収益に近く、それに相当する地代を要求する。一方、市場に供給される農地はまず限界収益の高い作目から使用される。借入(需要)農家は、穀物に比べて優位性の高い品目(果樹、花卉、野菜)を経営しており、穀物生産の自作収益に近い水準の地代を提供することが可能である。このようにして需給が均衡に達すことになり、高地代が成立することになる。
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