研究概要 |
植物の持つ耐病抵抗性の発現においては植物が病原体の感染を感知してから防御反応を誘導する過程で多くのシグナル伝達因子の関与がシロイヌナズナを用いた変異体の分析から明らかとなりつつあるが、イネではまだその過程のごく一部しか解明されていない。イネにおけるこの過程を明らかにする目的で、我が国の最重要病害であるいもち病を材料に用い、これに対する抵抗性を向上させる劣性の因子の探索を行った。抵抗性の向上は実用的な価値が有るだけでなく、被感染時に防御反応を抑制している因子に関する重要な情報をもたらす。しかし、いもち病抵抗性だけを指標にイネをマススクリーニングするためのシステムはまだ完成していなかったので、その第一段階として比較的容易に見出せる疑似病斑系統の中から、いもち病への抵抗性を向上させるものを検索した。その結果既存の疑似病斑系統spl1〜11中ではspl5,6,10が、またTos17のミュータントパネルの中ではNF4050系統が、有意にいもち病への抵抗性を向上させることを見出したので、これらの原因遺伝子のゲノム上の位置をindica品種との交配後代集団による精密遺伝分析により明らかにすることを試みた。これらの疑似病斑は温室の幼苗検定では判定することが出来ず、野外の圃場でかなりageが進まないとはっきりした形質の判別をすることは出来なかった。このうちで、spl10は単因子であったのでF2集団を用いて比較的容易にその領域を100kb以下にまで絞り込むことが出来たが、残りはいずれも交配相手のindica品種中に疑似病斑の発現を抑制する因子が存在しており、圃場でも病斑個体の分離比は1/16にすぎず、精密マッピングが困難であった。そこで抑制因子が抜けたF3のヘテロ種子を選抜して新たな後代集団を展開することにより、2-300kb前後への絞り込みが可能となった。
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