研究概要 |
害虫防除用に野外施用した昆虫病原菌が野生の昆虫病原菌に及ぼす影響を考察するため,森林総合研究所多摩森林科学園内に試験地を設定し,生息する野生昆虫病原菌相の調査,Beauveriabassianaと他の昆虫病原菌の競合の解析を行った。 B. bassiana F-263株を大量培養し,得られた分生子を水に懸濁して試験地の沢沿いに散布した。散布前と散布直後,およびその後月1回土壌をサンプリングし,そこに含まれる昆虫病原菌をハチノスツヅリガ幼虫による釣り餌法と,選択培地による分離法で検出し,密度を調査した。導入したB. bassianaの密度は最初の2ケ月で急速に,その後は緩やかに減少し,6ケ月後に4%になった。分離法ではB. bassiana導入区における別の昆虫病原菌Metarhizium anisopliaeの密度・頻度は,B. bassianaの導入による影響を受けなかった。ハチノスツヅリガ幼虫を餌とした感染調査では,B. bassiana導入前にはM. anisopliaeによる感染が8〜53%であったが,導入後3ケ月の間1〜4%に低下し,その後上昇した。一方,B. bassianaによる感染は導入後75〜89%まで上昇し,6ケ月後でも50%以上を保っていた。 試験地の土壌から分離し,保存してあるB. bassianaの株が野生菌か導入菌かを調べるための分子生物学的マーカーの選定を行っているが,まだ不完全なため,より完全なマーカーを決定した後に解析に用いる。
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