マラリア原虫がホストに侵入し病原性を確立するためには、ホストの免疫システムから逃れる仕組みが重要である。この仕組みに深く関わっていると考えられている因子の一つがvar遺伝子ファミリーであり、その翻訳タンパク質PfEMP1は感染した赤血球表面で機能している。PfEMP1はマラリア原虫に感染していない赤血球表面や血管内皮細胞表面の糖鎖を認識して結合することにより、マラリアの症状である発熱、震えなどを引き起こす。var遺伝子ファミリーは約60遺伝子からなり、それぞれが大きく異なる超可変領域をその遺伝子配列内に持つ。この可変領域がちょうど抗原部位にあたり、マラリア原虫は働くvar遺伝子を変化させることにより、ホストの免疫システムから逃れることができると考えられている。 本研究では、まずPfEMP1が糖鎖を認識する部位を同定するために、タンパク質のアミノ酸配列中に分散した複数の関連するモチーフを抽出する手法を開発した。この手法は3段階からなり、第1段階ではウィンドウサーチにより短いアミノ酸配列パターンを抽出し、頻出するパターンを組み合わせることによって、パターンの頻度プロファイルを作成する。第2段階で、頻度プロファイルに基づくスコアが、ある閾値以上の部分だけを抽出し、第3段階で抽出したモチーフの組み合わせを考慮して、共出現するモチーフペアを求める。本手法はマラリア原虫のrifin遺伝子ファミリーにも適用した。また、抗原変異を種間比較解析するためのデータベースvarDBを開発した。マラリア原虫以外にも遺伝子ファミリー内の配列多様性によって抗原変異を発現しているものは多く知られているが、それらに共通するメカニズムは未知の部分が多い。varDBは、知られている抗原変異遺伝子ファミリーを収集し、検索・解析ができるようにしており、http://www.vardb.org/で公開している。
|