菌根菌は植物の根に共生し、植物から炭水化物を受けると同時に、土壌養分を植物に供給する機能を持っことが知られている。こうしたことから、炭素や窒素の循環における菌根菌の役割は重要だと考えられているが、そζに菌種間差がどの程度存在するのかについては明らかではない。本研究では安定同位体による標識実験を中心に、こうした菌根菌の菌種間差の存在を探求しようとするものである。当初は、ユーカリ林での実験を想定していたが、調査の結果、日本のユーカリ林の菌根菌群集は予想以上に単純で、実験に適さないことが明らかになった。そこで、研究対象を国内樹種に変更して研究を進めることにした。アカマツに共生する、キツネタケとクロトマヤタケを13Cと15Nで標識したグリシンによってラベリングし、周辺の子実体やアカマツへの標識物質の移動を時空間的に解析した。いずれに菌種においても、ラベリングした子実体から周辺の子実体への物質移動が確認されたが、個体による変動が大きく、菌種間差は明確にできなかった。まだ、富士山のミヤマヤナギへの13Cラベリング試験では、ミヤマヤナギに共生する複数の外生菌根性子実体へ13Cの移動が確認できた。ラベリングから2週間後にも物質の移動が確認できたことから、ミヤマヤナギが光合成で生産した物質がいったん菌糸内でプールされ、子実体の形成時に利用される可能性がある。この実験においても、個体による変異が大きく、明確な菌種間差は認められなかった。今後の研究では、菌種間差とともに環境要因による窒素や炭素移動の変化についても解析していく必要があるものと考えられる。こうした実験研究と並行して、いくつかのレビュー論文などを完成させた。
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