我々のこれまでの研究から、遺伝的雄(XY)のティラピアでは孵化後6日に生殖腺の体細胞でDMRT1遺伝子が特異的に発現することがわかっている。一方、この時期のXX生殖腺ではエストロゲン合成に必要な芳香化酵素遺伝子の特異的発現が認められる。従って、ティラピア生殖腺の性分化にとって、芳香化酵素遺伝子(前顆粒膜細胞)とDMRT1遺伝子(前セルトリ細胞)の発現が雌雄特異的に起こることが重要であると考えられる。本年度は、ティラピアのXY生殖腺で精巣形成に先立って起こる体細胞(前セルトリ細胞)でのDMRT1遺伝子の発現機構、特に、これまで哺乳類のDMRT1遺伝子の発現に何らかの役割を果たすと考えられている転写因子Gata4について、DMRT1遺伝子の発現との関連を哺乳類の培養細胞を用いたプロモーター解析によって調べた。 ティラピアの精巣からRace法によりGata-4遺伝子をクローニングするとともに、Real time PCRを用いてティラピアの胚発生過程における発現パターンを解析した。その結果、Gata-4遺伝子の発現は受精直後の胚ですでに認められ、非常に強い発現が受精2日後に観察された。In situ hybridizationによる詳細な解析では、gata-4遺伝子の発現は卵巣と精巣の体細胞に強い発現が認められた。これらの結果から、Gata-4遺伝子は生殖腺の形成、発達過程に何らかの役割を果たしているものと推察される。 さらに、DMRT1遺伝子の発現に及ぼす性ホルモン(エストロゲン、アンドロゲン)の影響を哺乳類のTM4細胞を用いたプロモーター解析により調べた。まだ予備的段階ではあるが、性ホルモンがDMRT1遺伝子の発現に影響を及ぼすことを示す結果は得られていない。 Gata-4遺伝子に加えて、Gata-6、Sox5、Pod1遺伝子についてもクローニングを完了し、発生に伴う発現パターンの変動を解析中である。なお、Gata4の研究の一部はHaobin Zhao博士との共同研究である。
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