土壌の酸性化は、熱帯から寒冷域まで、陸域に普遍的に発生している環境問題であり、近年では湿地の開発に伴う泥炭土壌の酸性化が世界各地で進行している。熱帯地域における沿岸域の泥炭地では、農地開発により、泥炭層の下にあるパイライトを含む鉱物質層が酸化されて発生する硫酸が、強酸的土壌の生成の原因になっている。本研究は、酸性硫酸塩土壌およびこれから派生する強酸性陸水生態系において、堆積物の広域分布とパイライトの酸化による硫酸の生成および分解プロセス、さらに硫酸の輸送による土壌・陸水系の酸性化プロセスを明らかにすることを目的とする。 初年度は、広域的な酸性硫酸塩土壌がみられるインドネシア中央カリマンタン州の泥炭分布地域において、河口から35-120km上流を対象エリアとした広域的な土壌断面調査および地質調査を行い、鉱物組成および元素分析用の試料を得た。X線回折分析による鉱物の同定を行った結果、調査エリアの堆積物からはパイライトが検出されず、当該地域における硫酸の生成は必ずしも堆積物中のパイライトの酸化に起因するものではない可能性が示唆された。また、地下部における酸化還元電位を測定するために、泥炭土壌用のORPメーターを試作し、野外において酸化還元電位を計測することでその適応性について検討を行った。その結果、表層から深さ1mまでの詳細な酸化還元電位の鉛直分布が得られることが判明した。今後は、当該地域における堆積物と硫酸汚染がみられる河川・地下水の広域分布特性と、土壌中におけるイオウおよび鉄の存在形態と酸化還元電位との関係について、データの蓄積を行う予定である。
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