土壌の酸性化は、熱帯から寒冷域まで陸域に普遍的に発生している環境問題であり、近年では湿地の開発に伴う泥炭土壌の酸性化が世界各地で進行している。熱帯地域における沿岸域の泥炭地では、農地開発により泥炭土壌が消失し、その下にあるパイライトを含む鉱物質層が酸化されて発生する硫酸が土壌酸性化の原因になっている。本研究は、酸性硫酸塩土壌とこれから派生する強酸性陸水生態系において、泥炭堆積物中でのパイライトの酸化による硫酸の生成および分解プロセス、さらに硫酸の輸送による土壌・陸水系の酸性化プロセスを明らかにすることを目的とする。 今年度は、インドネシァ中央カリマンタンの熱帯泥炭湿地における硫酸汚染土壌の実態について、泥炭土壌の潜在的な酸性度と重金属濃度の鉛直分布を把握し、泥炭土壌の酸性化プロセスが重金属の移動性に及ぼす影響について評価した。その結果、セバンゴウ川上流域に位置するセティア、カランパンガンの両地区では、泥炭堆積物中の酸性度は、有機物に保持されていたプロトンの放出が主要因であることが判明した。一方、セバンゴウ川下流域に位置するパドラン地区の泥炭堆積物中のプロトン濃度は、有機物でのプロトン交換よりもパイライト由来の硫酸が泥炭土壌の酸性度に寄与していることが明らかとなった。また、泥炭堆積物中での重金属濃度の鉛直分布は、パイライト酸化によって生成された硫酸濃度の分布と類似していることから、泥炭堆積物からの重金属の溶出は、堆積物中の有機物量の減少によって促進される可能性が示唆された。今後、泥炭堆積物中での重金属の結合状態を精密に解析し、陸水系への重金属の流出プロセスに関するデータの収集を行う予定である。
|