研究概要 |
平成20年度も前年度に引き続き、インドネシア中央カリマンタンの熱帯泥炭湿地において、硫酸汚染の実態について土壌学、地球化学的解析を進めた。泥炭堆積物のプロトンのソースについて、パイライト由来、および泥炭由来の相対的重要性と制御因子の抽出を行った。その結果、プロトン濃度の差には、地域ごとに明瞭な違いがあり、堆積物中の有機物含有量が多いほど潜在的プロトンの放出量が多くなることがわかった。さらに、泥炭層から鉱物層にかけた堆積物のプロトン濃度のパターンには、一定型、減少型、増加型の3タイプが存在し、特に増加型については、有機物量が殆ど無い鉱物層でのパイライト由来の硫酸が主要なプロトンソースであることが示された。さらに、堆積物の有機物含有量の低下に伴う硫酸の拡散は、重金属を可溶化させることが明らかとなり、陸水環境への重金属の流出を含めた評価が今後の課題として必要であると考えられた。還元的な泥炭土壌の存在の有無が、パイライト由来の硫酸の挙動に大きく関わっていることが明らかとなった。一方、堆積物中のイオウと鉄の挙動に深く関わる還元的環境について、植物の根圏付近まで測定可能な酸化還元電位測定装置を用いて、堆積物の層序や植物根圏との対応性について解析を行った。ドイツ東部ブランデンブルグ州のベルゲン湿原、大分県九重町のタデ原湿原、福岡県筑後川河口域において、各地域に共通して生育するヨシ群集内外における土壌中の酸化還元電位を比較したところ、ヨシ群集土壌の酸化還元電位は、表面から根圏にかけて高い値を示すが,根圏よりも深い場所では急激に値が低下する傾向を示し、堆積物中の還元的環境の形成につながることがわかった。特に、塩分、酸性度に対して強い耐性を持つヨシ群集の定着は、強酸性化した陸水環境においてパイライトの酸化を防ぐ還元的環境の形成と植生回復の方策につながる可能性を示唆する重要な知見を得た。
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