申請者は「占領とナショナリズムの相関関係研究-沖縄と韓国における基地と女性問題を中心に」というテーマで特別研究員に採用された。本研究の特色は、従来、歴史・哲学・ポストコロニアリズム研究で言及してきた概念としての「ナショナリズム」を「人間のための安全保障」という国際関係論の手法を用いて再検討することである。更に、本研究ではジェンダーの視点を取り入れ「ナショナリズム」が如何に拡散されてゆくのかを「女性の身体」との相関関係で把握してゆく点でジェンダー学の分野においても新しい取り組みである。 まず「占領」についての概念を再検討するため沖縄に注目している。平成18年度には沖縄の那覇、座間味、本部、読谷、宮古で調査を行った。特に、沖縄においても唯一「地上戦」を経験していない特殊な島である宮古島にて集中的な調査を行った。沖縄の中でも宮古島は沖縄戦当時米軍が上陸していない特殊な戦争体験を持っている。その為、多くの日本軍関係の遣跡が残っている。また、朝鮮人軍夫の多くが「特設水上勤務部隊(朝鮮人軍夫)」として「朝鮮人慰安婦」と共に多く配備された地域でもある。沖縄戦で朝鮮人軍夫が強制連行されてきたことは、防衛庁の戦史でも明らかであるが、その実相は闇の中に埋もれたままである。防衛庁の『沖縄方面陸軍作戦』(『陸軍作戦』と略称)は、沖縄本島を経て、慶良間列島の日本軍海上挺進戦隊のもとに約860人が「特設水上勤務部隊(朝鮮人軍夫)」として配備された、と記述している。しかし、慶良間列島における「特設水上勤務部隊」の実態は、「戦力のない」「海上挺進戦隊の泛水(舟を水際に浮かべる)作業要員」との記述以外のことは詳しく知られていない。朝鮮人軍夫及び朝鮮人慰安婦は、韓国のナショナリズムに基づいて作られた戦争記念館にも、多くの平和記念館でも祈念されていない存在でもある。申請者は宮古島での調査を本格化し、宮古島に連行された、徐正福(ソジョンボック)氏のインタビューを行った。(9月)そして徐正福氏のような朝鮮人軍夫を沖縄の住民がどのように記憶しているのかを調査し、更に、宮古島における生存者が朝鮮人たちを如何に記憶しているのかについて調査を行った。調査の過程で、記録では残っていないが、宮古島には11箇所の慰安所が残っていることも確認できた。これらの研究成果をもとに平成19年度にはナショナリズムと占領との関係性を明らかにする。
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